甲斐 豊 先生(阿蘇医療センター病院長)

kai-yutaka-thumb-160xauto-16.jpg 地域医療を支えるためには、地域住民の方々や医師会の先生方から信頼と満足が得られる医療体制の充実が欠かせません。地域住民の生命を守るため、一般的な診療以外にも、専門医療・救急医療・災害医療・予防医療・医療連携の構築など多岐にわたる仕事が求められます。

 ここで、私が所属する阿蘇医療センター(平成26年8月に、阿蘇駅前に新築移転します)の取組についてご紹介いたします。専門医療は、脳卒中、循環器、糖尿病、小児科、癌化学療法など各施設で展開されている上級医師による診療に接することで、経験と実績を積み上げ、スキルアップが可能です。救急医療は、阿蘇医療センターで独自の取り組みを行っています。急性期脳梗塞の患者さんに対し、画像の遠隔診断にもとづく血栓溶解療法(t-PA治療)を展開しています。脳卒中専門医のいない施設でも、t-PA治療の適応があるかどうか、IT機器を用いて初療医と専門医との間で画像をやり取りし、適応があれば治療を開始しながら(drip)、専門医療機関に搬送(ship)する方法(drip&ship法)を実践しています。この方法で、今まで全くt-PA治療が行われなかった阿蘇医療圏で、2年間で7人の患者さんにt-PA治療を行い、再開通が得られています。今後は、循環器の急性期患者さんにも応用しようと計画しています。災害医療に関しては、院内でDMAT隊を結成し、いつでも災害時に出動できる体制を整えました。予防医療は、栄養士による糖尿病教室、小児科医によるアレルギー教室などを行っていますが、新病院開設後には、糖尿病専門医によるレベルアップした糖尿病教室、呼吸器専門医による睡眠時無呼吸外来や禁煙外来、健診部門の充実による予防医療の充実などを計画しています。医療連携は、地域完結型医療を推進するため地域医療連携システムを導入します。脳卒中、大腿骨頚部骨折、糖尿病、がん治療、認知症などの医療連携パスを導入し、地域中核病院と地域医師会との医療連携を充実していきます。

 このように、地域医療を担う病院で仕事をするということは、サッカーで例えるとディフェンス、オフェンス、キーパーなど役割分担しないオールラウンドプレーヤーとしての働きが求められます。そのために総合診療医の資格が取得できるような準備をしておかなければなりません。しかしながら、その環境の中でも、各個人が何らかの専門医療を目指して研鑽していくことで、最先端の医療も提供できるような取り組みも必要です。

 地域医療を支えるためには、やるべき仕事は非常に多く、大変な努力が必要です。地域の公的病院として、信頼され責任のある医療を提供することで、地域住民の方々から育ててもらえるという、非常にやりがいのある仕事が地域医療です。皆さんへの期待は、非常に高いものがあると思います。一緒にがんばっていきましょう。

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